- サンタはきっと幸せらしい -
 電柱の上から、そんな彼らを見つめる二人の影があった。
「いやぁ、若いっていいよね。感動しちゃう」
 サンタの衣装を着て、腕を組みながら電柱のてっぺんに立つ佐藤は、まるでバトル系漫画のラスボスのような風格を漂わせていた。
 そんな彼の一つ隣の電柱の上にもまた、男が立っていた。
「美緒ちゃん、大胆だなぁ……まぁ、あいつら昔から仲良かったんですけどね。付き合ってるわけでもないのに、いつも一緒にいたし」
 佐藤とは違い、腕は組まずにピンク色の手袋をライトアップされた街の中でひらひらと揺らしていた。
「やだなぁ、あれあだけやっておきながらまだ付き合っていないだなんて。最近の若い子は、ほいほい相方を変えてしまうのかい?」
 苦笑しながら佐藤は男に尋ねる。
「逆ですよ」
 男もまた、苦笑しながら答えた。
「お互い好きすぎて、もう離れられないんじゃないかと思いますよ」
「なんだなんだ、ヤキモチ焼いてるのかい?」
 佐藤のおっさん顔は、街の灯に照らされていよいよ不気味なっていた。しかもサンタの格好をしているのでたちが悪い。
「まさか、俺にはこれがいますし」
 そう言って、男は手袋をひらひらさせた。
「はは、そうだな」
 ザリザリと顎鬚をこすりながら、違いない、と佐藤は笑った。
「俺もいい加減彼女が欲しいよ。紹介してくれないか?」
「さっきのトナ会で仲良くしていたのは、彼女じゃないんですか?」
 佐藤は男を少しの間ポカンと見つめてから、あぁ、と笑った。
「それはだめだな。トナカイが彼女というよりタチが悪い」
 それを聞いて、男は安心したように息を吐き出す。
「ですよね。俺ならドン引きして、この仕事やめてます」
「おい―――」
 佐藤が反論のを制止して、男は言った。
「行きましょう。早く届けないと、あれに間に合わなくなっちゃいますから」
「む、そうだな」
 二人の影は、街の灯の中へ消えて行った。

 ○

 そんな二人に見られてたこともいざ知らず、足立と美緒は抱き合い続けていた。
「んっ…………」
 口元が妙に熱っぽくて、頭の中がぐらぐらしていくのをぼんやりと美緒は感じた。
 二人は、そっと口を離した。
「…………」
「…………」
 無言で見つめ合う。そんな時間が、永遠に続く気がした。
 その時、足立は自分と美緒の間に、白いものが落ちて行ったことに気付く。
 最初は1つだったものが、2つ3つ。段々と増えていった。
 足立は無言で空を見上げる。
「…………雪だ」
 彼が顔を見上げたので、美緒もそれに続いた。
「あ、ホントだ。雪だね」
 空から無数の雪が舞い降りてくる。さっきまでただ黒いだけの空間だった空が、無限に広がってゆく感じがした。
「綺麗………」
 ぽつん。と美緒はつぶやく。
「……そうだな」
 空を見上げたまま、足立は答える。
 雪は勢いを増しながら、いつまでも降り続けていた。

 ○

「ほらほら、急いでゆうくん!」
 二人が仕事中であることに気付くのに、そんなに時間はかからなかった。だが、大きなタイムロスであることには変わりは無く、夜の街を彼らは駆けた。
 申し訳ないことに表札の前で抱き合ってしまった家にそそくさとプレゼントを届け、少し離れた家まで走って行き、二つ目のプレゼントを届けた。
 残りは、あとひとつである。
 足立が腕時計に目をやると、時計の針はすでに11時を過ぎていた。
「それにしても……まさかこのトナカイがなぁ」
 腕時計を付けていない、右手に握られたトナカイを彼は見てみる。
「だから言ったじゃん。サンタクロースは実在するんだって」
 先を行く美緒が、満面の笑みで振り返る。彼女の手の中には、最後のプレゼントが大切そうに抱きしめられていた。
「あぁ、今なら納得だな」
 足立の右手に握られた、トナカイ――――佐藤にもらったキーホルダーは、不思議な力を持っていた。
「まるで……魔法みたいだったし」
 そのトナカイの鼻を押すと、赤く光った。
 そして、気付けば彼らは家の中にいた。それこそ科学では説明がつかない、魔法としか言いようがない出来事だったのである。
「赤鼻のトナカイは、他とは違うんだよっ」
 走りながら、美緒は笑う。
「あぁ、そうみたいだな」
 足立は、答えながらそんな美緒を追いかけた。
 
 ――――赤鼻のトナカイは他のトナカイの三倍の速さで走れるらしい。

 足立は、そんなことを美緒から聞いた。


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