- サンタのバイトは終わりらしい -
「……? おい、美緒。本当にこっちであってるのか?」 足立は夢中で走っていて気付かなかったが、彼らは河原の近くに戻ってきていた。 「この辺にあるなら、最初に届ければよかったと思うんだけど」 辺りを見回しながら、彼はつぶやく。 「いいのいいの」 足立がつぶやくのも気にせず、彼女は走り続ける。 ○ ついに、彼らは河原に到着した。 「おい、なんだかおかしくないか」 それでも美緒は走り続ける。雪はさっきからずっと降り続いていて、砂利の音と雪を踏み鳴らす音が混ざっていた。 「急いで、ゆうくん」 出発地点の小屋がどんどん近づいてくる。 どんどん近づいて―――美緒は小屋の前で止まった。 「はぁ、はぁ……」 前かがみになって肩を上下に揺らしながら、美緒は大きく息を吸っていた。 「大丈夫か。てか、戻ってきちゃったんだけど」 足立はそう言いながら、彼女の背中を軽くさする。 「や……ちょっと! トラウマが!」 「あ、ごめん」 さきほどの惨劇を思い出し、彼は美緒の背中から手を離した。 「だいじょーぶ。それより、今何時!?」 もの凄い形相で美緒が振り返ってきたので、足立は慌てて時計を確認した。 「えっと、12時チョイ前」 「間に合った〜!!」 美緒ぺたんと座り込んでしまった。 「えっ? どういうことだよ」 足立は訳がわからないまま、座り込んでしまった美緒の肩をかつぐ。 「……ふふふ」 美緒は、不敵に笑っていた。 「…………とりあえず、中に入るぞ」 地雷地帯に足を踏み込む心地がしたが、彼はままよとドアを開けて中に入った。 ○ 「メリークリスマース!!」 入った途端、足立の目の前で七色の紙テープが吹き荒れた。クラッカーが鳴ったのだと認識するのに、数秒かかる。 「……………」 唖然とする彼の腕から、美緒がするりと抜ける。 それすらも、足立は気付かなかった。 なにより目の前の光景が、信じられなかった。 あの小屋とは到底思えない、綺麗な装飾。 テーブルには豪華な食事が用意してある。ホカホカと湯気がのぼって、匂いが彼の鼻をくすぐった。 ――――そして、小屋の中には、3人いた。 佐藤と、この仕事を紹介してくれた友人と―――彼の彼女だろうか。 なんだ、なんだこれは――――足立は戸惑う。 その3人に美緒が加わった。みんな嬉しそうな顔をして足立を見つめている。 「ゆうくん! メリークリスマース!!」 言いながら、彼女はさっきから大切そうに持っていた、最後のクリスマスプレゼントを足立の前に突き出した。 「………へ?」 目の前に突き出されたクリスマスプレゼントを、彼は見つめる。 「これって、届けるやつじゃ……」 「だから、今届けるんだって!」 足立は美緒の顔を見る。彼女は満面の笑みで、彼に言った。 「メリークリスマスゆうくん!! 誕生日おめでとう!!」 そこで彼は思い出した。 ――――あぁ、そういえば僕……今日誕生日だった。 足立祐介。12月25日生まれ。 彼はゆっくりと美緒からプレゼントを受け取った。 そしてぽそりとつぶやいた。 「メリー……クリスマス」 その晩、小屋から笑い声が絶えることは無かったそうである。 |