- サンタもやっぱり人間らしい -
「うっぷ、ちょっと食べ過ぎちゃったかも」
 ぽっこりと膨らんだお腹をさすりながら、美緒はニッコリと笑う。
「確かに食べ過ぎだ。頼むから人の家とかで吐かないでくれよ」
 足立はため息とともに美緒の背中をさする。
「ちょ、出る! 出る出る!!」
「ぎゃぁあああああああ」
 ――――夜の住宅街で、サンタ二人がてんやわんやしていた。

 ○

 トナ会は8時には終わり、日本各地のサンタクロースは壁にあるドアの中へ次々と消えて行った。足立と美緒もそれに続いて、ドアに向かう。
「佐藤さんは、戻らないんですか」
 ドアノブに手をかけながら、何故か後ろに付いてきた佐藤に足立は尋ねる。
「うむ。まだ色々とここで仕事があるからな。あ、そうだ。君たちに渡すものがある」
 そう言って、佐藤はゴソゴソとサンタの服の中に手を突っ込んでまさぐる。
 しばらくまさぐった後、あったあったと小さなキーホルダーを取り出してきた。
「はいこれ。お守りだと思って大事に持ってなさい」
 それは、トナカイをモチーフにした可愛らしいキーホルダーだった。
「きゃぁ、うぷ、可愛い!! うぷ」
 美緒は苦しみながらも女の子らしい可愛い反応を見せる。無理しなくていいのに、と足立はこころの中でつぶやいた。
「じゃ、最後のお仕事しっかり頼むよ。終わったら、またあの小屋に戻ってきてね。給料あげるから」
 それだけ言って、じゃあねと佐藤は歩いていってしまった。
 足立は自分の手に握られたキーホルダーを見ながら、言う。
「……行こうか、美緒」
「うん、うぷ、そうだね、うぷ」
 
 ―――僕は三年間の間に、どれぐらい美緒との思い出を美化してきたんだろう。
  
 しみじみと、足立は思ったのだった。
 
 ○

 サンタの服に、プレゼントを入れた白い袋を背負えば、もうそれは立派なサンタスタイルである。
 そんな格好で、口から言葉以外の色々なものを吐き出して、スッキリとした表情の美緒が笑う。
「……ふぅ。出しちゃうと楽になるんだね。男の子の気持ちが良く分かったよ」
「美緒、もうそれ以上喋らないでくれ。大丈夫だ、お前は十分可愛いよ」
 目の前の電柱を睨みつけながら、足立は言う。
「ゆうくん……嬉しいよ」
「うん、行こうか」
 再び二人は歩き始める。
 プレゼントは全部で3つ。どれもこれも指定がされていて、枕元に置くものや、クリスマスツリーの根元に置くものなどがあった。
 その指定が書かれた紙に目を通しながら、美緒はぽつんと言った。
「ねぇゆうくん。3年前のクリスマス、覚えてる?」
 足立は何か答えようと思ったが、その前に美緒が続けた。
「あの時、ゆうくん。私に子供だから小学生から人生やり直しなって言ったよね」
 彼女の言葉の語尾には、殺気がこもっていた。
「は? いやいや、何いってんだよ。そんなこと言ってないからな」
 思わず飛び退き、手の平を美緒に見せて、否定する。
 ――――人間の記憶力のバカヤロー
 足立は人間を作りし創造主を恨んだ。まさか、聖なる日に恨むことになろうとは思いもしなかったのだが。
「あれ? そうだっけ」
 美緒は飛び退いた足立にキョトンとした表情を見せる。
「あぁ、そうだよ。俺は子供だなぁしか言ってないって」
 少しづつ、距離を近づけながら、足立は恐る恐る言う。
「そ、そうだっけ」
「そうだ、そうだよ」
 だんだんと近づいていき、いつの間にか二人はくっ付いていた。
「……あったかいね」
 美緒は足立の腕に顔をうずめる。
「あぁ。だがな美緒、僕たちは今仕事中だ」
 ほら、さっさと行くぞ。と、足立は美緒を腕から離して、ポンポンと背中を叩いてやった。
「…………」
「どうした?」
 黙り込んでしまった美緒の顔を、足立は不安げに覗き込む。
「…………うぷ」
「!!」
   
 現実には、ロマンスもへったくれもないのであるということを、足立は実感したのだった。


前へ  戻る  次へ