- サンタは時間を守るらしい -
 寒空の元、朝焼けを背景に閑静な住宅街の中を宅配バイクが疾走する。
「空気が冷たくておいしいね。やっぱ、早起きは三文の得だ」
 そう言いながら、美緒は相変わらずアクセルを踏みっぱなしで突き当たりの角を右に曲がった。
 そんな美緒にひしと抱きついて、とにかく振り落とされないことを第一に考えるのみの足立は、舌を舌を噛まないように気を付けながら尋ねる。
「なるべく、目立たないようにするんじゃ、なかったのかよ」
 彼はバイクに乗るのがこれが始めてである。
「別にいいじゃん。この格好なら、自分からサンタですって名乗ってもバレないと思うよ」
 ニッコリと笑いながら、美緒は振り向く。
 ――――前見ろ、前。と、足立は必死に顔を振って、無言の指示を出す。
「け、警察に見つかったら、プレゼント配達、どころじゃ……」
「こんな朝早くから見つかる訳ないって。それに、最初はこのくらいのペースで飛ばさないと、配達終わんないんだから」
 だが、良心が足立を食い下がらせる。
「で、でも……」
 その時、彼は昨日の鋭い眼光を再び感じた。
「ゆうくん、少しは私のことを信じてよ。じゃないと落とすよ?」
 足立は沈黙した。

 ○

 二人は次々とプレゼントを郵便受けの中に投函していった。
 そこでふと、足立は気付く。どうも、このプレゼントは小さなもの―――つまり、郵便受けに入るようなものばかりだ。これはどういうことなんだろう。
「なぁ、美緒」
 3件目の、いかにも普通な一戸建ての郵便受けにプレゼントを入れてから、バイクを停めて地図を確認している美緒に尋ねる。
「今時の子供は、みんな小さなプレゼントしか頼まないのか?」
「んっ」
 地図から顔を上げて、美緒は首を傾げる。
「どういうこと?」 
 そのとぼけた感じの表情は、やはり――――かわいい。やっぱりかわいい、と足立は確信した。今そんなことはどうでもよかったのだが。
「郵便受けに入らない、大きなプレゼントはどうやって届けるんだ?」
 彼がそう言い直すと、あぁ、とわかりやすい反応をして、美緒は答えた。
「一定以上の大きさのプレゼントは、別ルートで宅配されるんだ。トラック便とかで」
 足立はなるほど、と一旦はそう思った。が、しかし――――これってただの宅急便サービスと変わんないじゃないか。
「………どうしたの、ゆうくん。考え事?」
 思わず考え込んでしまった足立の顔を、美緒がのぞき込んでくる。
「えっ? いやいや、何でも無いよ。ほら、早く行こう、美緒」
 愛想笑いを浮かべて、足立は美緒を促した。

 ○

 プレゼント配達サービスは、エクストラ料金プラン(サンタクロースがやってくるプラン)を残して、滞りなく終了した、
 足立は何とか舌をかまずには済んだものの、口内をいくつか削った。数日後には、至る所で口内炎が育っていくだろう。
 全く、先が思いやられた。
 二人は佐藤の指示通り、朝の河原に戻ってきていた。時刻は6時半過ぎ。タイムラインはしっかりと守られている。
 小屋のドアの前まで歩いてき、ドアをノックすると、佐藤が出てきた。
「おっ? もう終わったのかい。いいね、仕事が早くて関心だな」
 佐藤は相変わらず無精髭をザリザリと掻きながら言った。
「じゃぁ、そろそろあれを準備しちゃおうか。ちょっと来て」
 軽く手招きをしてから、佐藤は小屋の中に消えた。
 二人はその後を追って、小屋に入る。入りながら、足立は美緒に尋ねる。
「なぁ、あれって何なんだ?」
 すると、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、美緒は言った。
「サンタとえばトナカイでしょ」
「へ? トナカイ?」
 ――――トナカイって、まさかあのトナカイか?
 彼の反応を全く気にせずに、それだけ言って先に行ってしまおうとする美緒を、足立は慌てて追いかけた。


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