- ラストバトルは突然に -
 バレンタインの特別な力。
 それは、スイーツとのコミュニケーション能力である。
 彼女は特定のスイーツ――――この場合は大抵MPSである――――が伝えようとするメッセージを受け取ることができるのだ。
 つまり、言い替えるならば、工場に
「MPSがあるんですね!?」
「ええ」
 カカオの言葉に力強く頷くバレンタイン。
 恐らくビター伯爵はMPSの持つ甘さの力を逆ベクトルに使用することにより、まさしく世界最悪のチョコレートを量産しているに違いなかった。
「着きました」
「行くわよ」
 目の前にそびえ立つ白い塊の中へ、二人は駆けていった。
 
 
 ◯
 
 
「な、なんなのこれ……」
 このような巨大な工場には普通、警備員の一人や二人がいるものである。
 しかしながら、二人を待ち受けていたのは人形のようなチョコレートの怪物だった。
「うヴヴ……ヴぉヴぉヴぉ」
「きゃっ!? 近づかないで頂戴!」
 突然横から飛び出してきた怪物を蹴り飛ばすバレンタイン。
 足にチョコの破片がこびりつく。
 その臭いは、とても苦苦しいものだった。
「ぐっ……これは恐らく99%チョコレートですね」
 バレンタインのおみ足に近づき、カカオは冷静に分析する。
 真剣そのものの顔を蹴り飛ばすわけにもいかないバレンタインだったが、この顔もなんだか気持ち悪かった。
「……ビター伯爵、相当やりたい放題やっているみたいね」
「えぇ。行きたくないですけど行くしかないですね。興四郎さんがチョコ人形になっていないことを祈りましょう」
 二人はさらなる奥へと駆けていった。
 
 
 ◯
 
 
 しばらく細長い道が続いたが、いきなりひらけた場所に出た。
 と、同時に鋭く低い声が、そのただっぴろい部屋中に響く。
「またお前達であるか!!」
「ビター伯爵! やっぱりあなただったのね!!」
「興四郎さんを開放して下さい!」
 対峙する二人と一人。
 そこに興四郎はいない。
「興四郎? そんな奴は知らぬ」
 ビター伯爵は真顔でそう言い放った。
 そんな彼に、二人は噛み付く。
「丸見えの嘘をつくのはやめて頂戴!」
「まーた嘘をつくんですか。僕はもう飽き飽きです」
「二人とも、大丈夫か!?」
 後ろから、声がした。
「「へ?」」
 バレンタインとカカオが振り返った先にいたのは、左右に武装集団を侍らせた興四郎の姿だった。
「え……興四郎さんどうして!?」
「敵を騙すには味方から、と言うじゃないか」
 ニコリと笑う興四郎。
「まーた嘘をつくんですか。僕はもう飽き飽きです」
 同じセリフを吐くカカオ。
 自分が飽き飽きだということには気づいていないようである。
「お前達が先にここに行ってくれていた間に準備が整えられたんだ。きっと僕が誘拐されたと思っただろうからね」
「利用……したのね」
 握りこぶしをギュッと締めるバレンタインだが、興四郎が制する。
「話は後だ。まずは目の前のコイツを倒すんだろ?」
「え、えぇ」
 我に返って頷くバレンタイン。
「よしっ、行くぞっ!」
 
 こうして、今回もまた、ビター伯爵の野望は敗れ去ったのだった。
 
 
 終

 

 

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