- 一目惚れ -
無口な俺が一目惚れをした。 相手はクラスの女の子。陸上部のエース、メビウスガール。本名を足達早奈という。 スラッとした長身に、鍛えられて筋肉質な細く長い足。綺麗な顔立ちは、まさしくアテネの美術彫刻のようだった。 もちろん、俺だけではない。同じクラスの約7割の男子は早奈に一目惚れした。 しかしその思いはすぐに打ち砕かれる。クラス最初の自己紹介で、彼女は堂々とこう言い切った。 「有山中学出身の、あだちはやなです。恋人はマラソンです」 きっぱりと、それだけ言って彼女は座った。クラスが騒然となったのは言うまでもない。 俺ももちろん驚いた。だが、その反面、嬉しかった。 なぜなら俺も、マラソンが好きだったからだ。 高校に入ってすぐ、俺は陸上部に入部した。理由は簡単。マラソンが好きだから。勿論中学でも陸上部だった。 俺がマラソンを好きな理由は二つ。一つは自分と向き合えること。もう一つは走り終えた後の達成感が最高なこと。 そしてそこに、三つ目の理由が加わることとなる。 足達早奈と走れること。 この時点で、俺はまさしく有頂天だった。もちろん、表面には出さない。心の中でよだれをダラダラたらして喜んでいた。 今すぐ、今すぐコイツと走りたい。早奈を見ているだけで足が動く。勝手に動くのだ。 最初の陸上部の活動で、新入部員の顔合わせを終え、俺達一年生はコートを一周走ることとなった。 お互いの実力を知る最初の機会。緊張の張りつめた空気の中での一周だった。 そこで、俺―――いや、早奈以外の全員はとんでもないモノを見ることになる。 |