- プロローグ -
 メビウスガールと呼ばれた、我が神原高校きっての陸上部のエースのことを俺は好きだった。
 どれぐらい好きかというのは、今日俺が見た夢の惨状を参考にしてほしい。


  ◯


 たったったったっ――――
 俺はただひたすら走っていた。そう、走っているのだ。
 別に走っているのはおかしい事ではない。俺は陸上部でマラソンをやっているからな。
 だから、しばらくは何も考えずに走っていた。けれど、どんなに走ってもゴールが見えてこないのだ。
 不審に思った俺は、正面ばかりに向いていた目線を横にそらす。すると、地平線が見えた。
 そこで俺はその地平線に向かって走っていく――――しばらくすると、その地平線の切れ目に到着した。
 だが、そこから先に地面は無かった。真っ黒だったのだ。
 俺は今度は上を向いた。すると、なぜか空があるはずの所に、地面があった。
 さらに不審に思った俺は、もう考えるのを止めて、再び走り始めることにした。
 すると、走っているうちに、段々と景色が――――俺も含めてフェードアウトしていく。
 最後に現れたのは大きなメビウスリング。そう、俺はメビウスリングの表面を延々と走り続けていたのだ。


 ◯

 
 夢はそこで覚めた。俺は寝ぼけ眼をごしごしと擦って、すぐ隣の目覚まし時計を鷲掴みにしながら時間を確認する。
 6時ジャスト。よし。今日も一日頑張ろう。
 俺は布団から身を起こすと、準備体操を始める。寝巻はジャージと兼用しているから、着替える必要は無い。
「いってきます」
 誰も聞いてないことは百も承知で、俺はそう呟いてから玄関のドアを開く。なんだか最近寒くなってきた気がするので、一応ジャージの上は羽織った。
 腕時計で時間を確認。6時5分。よし、今から朝のランニング開始。
 俺は正確なペースを心がけながら走り始める。
 焦ってはいけない。焦らず急がず確実に。そう、確実に、あのエースの座に並んでやる。
 それだけを肝に銘じて、俺は走り続るのだ。
 

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