- 夢 -
 あの告白の後から、僕とミドリの距離は急接近した。
 まぁ、もともとお隣さん同士だし、どちらも一人住まいだったから、突撃隣のバンゴハンみたいな事はしょっちゅうやってたんだけど。
 それでも、ミドリはなんだかいつも、僕のそばにいた。
 そして、僕も自然にそばに寄って行く。
 
 ――――こんな最後の島にも、心の安らぐ場所があったんだ。


 ○


 というような展開を期待した僕とその他大勢の人にゴメンナサイ。
 残念ながら、僕とミドリの間の距離は相変わらずだった。
 そこに僕からの、彼女に対する恐怖心―――つまり、あの日のカニバリズムのイメージが尾を引いているだけだった。
 けれど、ミドリは何度もその可愛らしくて色白な顔を上げ下げして謝ってくれたから―――
 結局それだけで僕は満足してしまった。決算報告終わり。


 ○

 
「最後の島へようこそ。役場までご案内します」
 今日も、珍しくスコールで空が覆われた日だった。
 そして今日も5人。相変わらずだった。
 相変わらず、生きているのにまるで死人のような顔をしている。
 こういう光景を見て、僕はたまに思うことがある。本土はどうなっているんだろう―――と。
 僕がこの島にやって来たのは、3年程前。まだ小学生の頃だった。
 突然両親が失踪した―――それが理由だった。
 その時は、なんだかおかしいような気もした。だって、失踪する前日まで特に変わった素振りも見せなかったから。
 でも、そんなことを考えてもお父さんとお母さんが戻ってこないことは、この3年間で嫌になるほど理解した。だから、もう気にすることは止めたのだ。
 それでも―――それでも―――僕はそれでも時々夢にうなされることがある。
 楽しかったはずの記憶が寝起きの僕を苦しめる。なんてパラドックスだ。
 だから、役場に向かってる時は夢にも思わなかった。
 まさか、今日もその夢にうなされるなんて―――――


 ○


「ハァッ…ハァッ……」
 僕は背中に伝う嫌な液体を感じながら、体を起こそうとする。
「くそっ………またあの夢かよ……」
 もう数え切れないぐらい見てきた夢。最近はその存在すらも忘れかけていた夢。
 それが再び、僕の前に現れたのだ。
「忘れろ………忘れろ………」
 そんな時、僕はいつも目を閉じてそう呟くのだ。
 自己暗示―――とでも言うのだろうか。おそらくこの光景を見ている人は僕をあざ笑うだろう。なんて悲しい少年だと。
 でも、そんなのどうでもいい。だってここには誰もいない。僕が存在してるだけの四畳半。僕の世界だ――――
「大丈夫?」
 ―――――なんて思った僕は、その声の主が最初からここにいることに気付いていなかった。
「やっぱり―――夢、見ちゃうんだね」
 白い顔がぼうっと僕の視界に浮かんでくる。
 ――――赤い眼鏡はしていなかった。
「忘れろ……忘れろ……」
 でも僕は、自己暗示を止めることが出来なかった。止められない。自分でももう―――止められない。 
 すると、その白い顔が僕に近づいてくる。
「もう―――――そんな声を聞かせないで」
 僕の体を、彼女の緑のジャージが覆った。ミドリの匂いが、する。
 やっとの思いで起き上ったのに、押し倒される。
 でも、それでよかった。
 僕は、すこし開いていた目を再び閉じた。
 そして、そのまま意識を歪ませ―――深い闇の中に落ちていく――――
 その時、確かに聞こえた。こう聞こえたのだ。
「行こう、島の外へ」
 何か言おうと動かした口からは、何も出なかった。
 

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