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「今から十年前。まだまこちゃんが小学生のころだったのかな?」
 まこちゃんは膝の間に顔をうずめている。
 おそらくだけど、泣いているのだろう。
 間違いなく、僕のせいだ。
 だけど、悪いとは思わない。
「君のお父さんはまず3人殺したよね。君以外の家族、お母さんとおじいさんとおばあさん」
 当時、大家さんは家庭内でトラブルを抱えていたそうである。
 金か、浮気か。
 原因が何かはわからないけれど、殺しをしてしまうだけの理由があったのだろう。
「それから、逃走のためにさらに5人殺したみたいだね」
 僕は携帯端末を開いてデータを確認する。
 警察庁の犯罪者データベースに僕がアクセス出来るのは、僕が警察官だからではない。
 知り合いに、警察官はいるけれど。
「全てを捨てて、君を守って……本当に子供想いの良いお父さんだったんだね」
 人殺しでなければ、の話だけど。
 たらればなんて、仮定なんて、本当にくだらない事だと僕は思う。
 まこちゃんは体を小刻みに揺らしながら、か細い声でつぶやく。
「お父さんは……悪い人じゃない。だから、私助けに来たんです」
「なるほど。つまり、そのスーツケースは外国逃亡のためだったわけか。この国にいたって心やすらぐ時なんてあるわけないもんね」
 貧乏というわけではないらしい。
 いや、もしかしたら貧乏だけど、とりあえず飛行機に乗るお金だけは頑張って貯めてきたのかも。
「田山……さん」
「なんだい?」
 濡れそぼった顔を上げて、まこちゃんは僕に尋ねる。
「あなたは、何者なんですか? お父さんを捕まえるの?」
「もちろん、身柄は警察に引き渡すよ。そして僕はタダのサラリーマンさ」
 システムエンジニアという肩書きは中々便利で使いやすい。
 確かに仕事は大変だけれど、インターネットがこの国の根幹に位置する時代で育ってきた僕にとっては造作も無い。
 量が多いのにはどうしても困るけど。
「お父さんがアパートの大家をやっているというのは、既に知っていたんだけどね。証拠が足りなかったんだ」
「しょ、証拠って?」
「君だよ、君。まこちゃん」
 僕は目の前でキョトンとした泣き顔を見せてくれる、まこちゃんの頭をポンポンと叩いた。
「君が教えてくれたじゃないか。お父さんが殺人犯ってことを」
 言いながら、僕はふところから細長いペンのような物を取り出した。
 ハッとした顔になるまこちゃんを見ながら、僕は一言
「コレで全部、録音してあるから」
 と、言い放った。


 

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