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 ネットカフェ「テクノポリス」
 
 煌々と光るネオンには、カタカタ6文字が大きく並んでいた。
 この言葉から連想するに、そこはまさしくテクノポリス。
 最先端技術が集積する大都市。
 鉄腕という二つ名を持つロボットが大量生産されていそうだが、もちろんそんなものは僕の妄想に過ぎないわけで、目の前には怪しげな自動扉が厳かに立ちはだかっていた。
「これが、ネットカフェかぁ」
 先程より入り口で正面から斜め上のネオンへと首を上げて下ろすの動作を繰り返す僕はかなり怪しい存在かもしれないが、この店の外見も負けず劣らず随分と怪しいものである。
 真っ暗な駅前の裏通り――――表の明るさに比べてどうして道一本違うところに入るとこうも世界は違って見えるのか。まるで二次元世界の表と裏、もしくは平行世界というものはこんな感じなのだろうかと僕は考えてしまう。
 それだけここは怪しいということなのだ。
 考えていると、思わず二つある眼球の間の空間にシワが寄ってしまう。
 だから、そんなしわ寄せに夢中になっていた僕は隣にいた人の気配に
「――――すみません」
 声をかけられるまで気付かなかった。
「そこ、どいてもらえますか?」
 隣を振り向くと、そこには麗しのお姫様がいたのである。
 
 
 ◯
 
 
 地味な格好、一言で切捨て御免してしまうのも勿体無い端麗な容姿だった。
 つまりだ、言い換えれば格好は地味だけれどだからといって顔は派手ではないが端麗で色白で可愛い。
 そんな感じである。
 茶色コートの下にはタートルネックを着ているのだろうか。
 首元に彩度が低めの赤い布がまとわりついていた。
 そんな彼女は、僕より少し背は低め。
 かといって下から見上げられるほどの差はないけれど、目線上では僕が少し上である。
 僕は声をかけられてからしばらくの間、そんな感じで目の前の20前後の女性をじろじろと見ていた。
 だから、怪しく思われるのも当然である。
「何ですか?」
 ちょっと目線をきつくしてそう言われてしまった。
「あ、いやいや。何でもありません。どうぞどうぞ」
 僕は一瞬、竹やぶの中に住み着いてタケノコを狩りに来る人間を取って食いそうなワイルドパンダの獲物を見定める冷徹な心をその視線の中に感じて焦った。
 すぐさま横にどいて、彼女にテクノポリスへの道をあける。
 まさに一生に一度か二度しか実演できないであろう三星ホテルのボーイ並の接待術をここで披露したわけである。
 彼女は僕のことをしばらく睨んでいたが、ふっと目をそらして。
「どーも」
 とだけ言って、テクノポリスへ入っていった。
 僕はつかつかと慣れた感じでテクノポリスへ入っていく彼女の背中を、自動ドアで視覚が強制シャットダウンされるまで見つめていた。
 手には何故か冷や汗をかいていた。
 男の背中にひんやりと事後の汗がつたった。
 まだ2月だからだろうか。
 そんな感覚が気持ちよいのである。
 なんだろう、スポーツをやった後のスッキリ爽快感とでも言えばいいのだろうか。
 とにかく、僕はそれからきっかり3分間後、彼女に続いて店に入った。
 腕時計の針は、すでに夜の11時を差していた。

 
 ◯
 
 
「お客様はお一人様ですか?」
「えぇ」
 店に入ると、なんだか眠そうな眼鏡のお兄さんが、レジの前で僕の顔も見ずに尋ねてきた。
「ご希望プランはどちらですか?」
 ラミネートされたA4サイズの紙を僕に見せてきたので、僕はとりあえず
「とにかく長くここにいたいんで」
 と答えた。
 すると、彼は別段驚いた表情を見せること無く
「分かりました。それでは初めから24時間料金で登録させていただきますがよろしいでしょうか?」
 と、一番下の欄を指さしてきたので僕は短くうなずいた。
 すると、何やらレジに打ち込んだ後、レシートを挟み込んだ小さなバインダーを渡される。
「退室するときには、ここに寄って下さい」
 それだけ言って店員さんは次にお客様どうぞと僕の後ろの小太りな男の人に声をかけたので、僕は流れ作業に貢献すべくそこから離れた。
 離れながら、手元のバインダーを見てみる。
 そこには三桁の数字で『765』と書いてあった。
 僕はちょっぴり心の奥で微笑みながら、暗い店内にライトアップされて掲示されている店内図をたよりに765番席に向かった。
 

 

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