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「ある程度の先進国で、なおかつある程度の規模の都市において有効なテロを考えてみてほしい」
 
 と質問を投げかけると、大抵お前はテロリストかというナンセンスな批判が飛んでくる。
 その批判がすでにナンセンスだと言いたいのを飲み込んであえて答えておくならば、僕はテロリストでもなんでもないただのシステムエンジニアという職種のサラリーマンであり、SEと略せばなんだか格好よく見えてしまうのか最近よく世間では話題に上がる。
 しかし、その実は恐るべき過酷な「みなし労働の温床」である。一日8時間、週40時間労働がなんだって? と耳をほじりながら僕たちシステムエンジニアの大半は毎日のルーチンワークに追われている。もちろんそんなことを考える余裕も無いのだが。
 さて、そんなナンセンスなやり取りは無いものと仮定しよう。次に多くの人が思い浮かべる事例としては「9・11アメリカ同時多発テロ事件」が最も有力だろうと思われる。というのもあの事件は皮肉なことに、それまでにもいくつか行われてきた非道なテロ事件がすべて霞んでしまうほどに衝撃的であり、一躍テロ事件の代名詞に躍り出てきてしまったのだから。かくいう僕も当時はリアルタイムでその映像中継を見ていたわけで、あの時の事はお世辞でなく今でも鮮明に覚えている。
 
 ここで突然だが、僕が考えた有効なテロを一つ上げておきたい。というのもこのままだらだらと不謹慎な話を続けては僕はもちろんのこと、この質問を受け取った方々の心の健康を害してまう。というわけで、誠に勝手だが僕の考えを聞いてもらってこの話はお開きにすることにしよう。
 
 僕の考える有効なテロ。それは電気供給を断つことだ。具体例を上げればわかりやすいと思う。首都圏で起きた大停電はまだ記憶に新しい(と思うのは僕だけだろうか?)
 3時間そこそこで完全復旧したため、大して大きく扱われなかったが、もし意図的に数カ所の送電線を爆破もしくは断線させられたらどうなってしまうのだろう。常識的に考えれば、今の時代大抵のビルディングには自家発電装置がついているので大して困らないかもしれない。けれど一般家庭はどうだろう。ほんの数時間ならまだしも一日以上復旧に時間がかかった場合、真っ暗闇の生活を強いられることになる。普段当たり前のように使っていた電気が無くなってしまった時、僕達はどんな心理状態におかれるのだろうか。なかなか想像し難い。まず困る。そして恐怖を感じる。僕は耐えられないかもしれない。非弱な人間だと蔑まれても結構。僕は怖い。怖いのだ。
 
 哀れな自嘲で話は締めることにして、そろそろ僕の体験談を語りたいと思う。こんな、どこぞの論評だと思わせる長い前置きのせいで数人の読者が「馬鹿らしい」とただの者になってしまっても、僕は一向に構わない。もちろんこれは虚勢だ。内心ビクビクしていることこの上ない。あぁ、こんなくだらないハッタリかましている暇があったら仕事仕事だ――――そしてその日も僕は仕事に疲れ果てて帰宅した。
 

 

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