- プロローグ -
 12月24日。

 ロサンゼルス市は大雪にみまわれ、市街は大混乱になっていた。
 深く積もった雪で交差点でも大混乱。
 それでも市民はみんな笑顔である。
 それもそのはず、今日は一年に一度のクリスマス・イブ。
 街中を少し歩けばサンタが必ず見つかる。
 運が良ければ、手に持っているキンキンに冷えたコーラを一本くれるかもしれない。
 そんな気前のいい日のロサンゼルス市街を足達早奈は疾走していた。
「ひゃほーい!」
 裏路地から飛び出して、凍った階段の手すりを滑り降りていく。
 削れた氷のくずが空を舞い、まるで天使がそこを通り過ぎたのかのようだ。
 隣を歩いている若いカップルも思わず驚いてしまうが、気付いた頃には早奈はいない。
 彼女はもう、次のブロックを駆け抜けているからだ。
 商店街のような所を走り抜ける早奈。
 と、前方の店先に赤服の白ひげを発見。
「サンタさーん! コーラ一本くれーい!」
 勢いを保ったままものすごい早さで走ってくる早奈に、サンタは持ってけ泥棒とばかりにコーラの瓶を投げる。
「今日だけの特別だぞハヤナ!」
「ありがとクリス! 明日プレゼントでお返しするね!」
 すれ違いざまに言い合って、減速なしで早奈は駆け抜けた。
 店に買い物に来ていたおばさんがおやまぁ元気ねと口に手を当て、クリスと呼ばれた青年に笑いかける。
「お知り合い?」
「えぇ、この前日本からやって来たばかりなんです」
 目を細め、もう雪の中に点程の大きさでしか視認出来なくなった早奈の背中を見つめる。
「メビウスガール、ハヤナ。アイツはマジですごいヤツですよ!」

 ――――ロスに来てから二週間。
 安達早奈はこの街ですっかり有名になっていたのである。
 

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